こんにちは、イシイです。
テクノロジー活用の裾野を広げるための模索活動の一環として、「耳のないマウス」というアートユニットを組んで活動をしていますが、この度、4/15(土) 〜 6/11(日)まで、岐阜県美術館で開催される「清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE 2017」にて、審査員賞を受賞しました。

「耳のないマウス」とは

2015年8月に開催されたアートのハッカソン「3331α Art Hack Day 2015」にて結成し、同イベントにおいて審査員賞を受賞した、コンテンポラリーアーティスト・プランナー・エンジニア・デザイナーから成る複合ユニットです。(「3331α Art Hack Day 2015」のレポートはこちらから。)
ハッカソンの展示でパネルの英訳を作っていた際に、作品「耳のない口(Earless Mouth)」がスペルミスで「耳のないネズミ(Earless Mouse)」になってしまっていたのが名称の発端で、以降「耳のないマウス(英表記:Earless Mouse/Mouth)」名義で活動することになりました。

清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE 2017とは

清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE 2017

「清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE 2017」は、丈六サイズの4.8m(幅) × 4.8m(奥行) × 3.6m(高さ)の空間の中で、手法・素材・技法を問わず自由に表現(制作・展示)する、岐阜県主催の企画公募展です。
戦後間もなくから各都道府県にて開催されるようになった公募美術展である「県展」を、岐阜県では昨年の第69回岐阜県美術展を持って取りやめ、今年より「清流の国ぎふ芸術祭」としてトリエンナーレ方式で県内外を問わずに公募する企画展と、その間の2年間を県民参加型の公募展を開催する形に姿を変えました。その清流の国ぎふ芸術祭の第1回目が、今回の「清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE 2017」です。

公募テーマ「身体のゆくえ(しんたいのゆくえ)」

公募テーマ「身体のゆくえ(しんたいのゆくえ)」は、公式サイトから応募概要を掲載すると、

現代社会はコンピュータの発達・普及にともなって発展し、また複雑化してきました。社会を写す鏡である現代アートも、コンセプト、素材、表現方法などあらゆる要素について既存の枠を取り払い、複雑化、多様化の一途をたどっています。 アートはあらゆる可能性を追求すべきですが、その展開のあまりの速さ、広さに、発信者である人間が置き去りにされてしまっているのではないか、多様化そのものが目的化されているのではないかとさえ思われます。 私たちは、美術作品は人間の生の結晶であると考え、今一度、人間そのものである自らの「身体(肉体、精神)」に着目し、その中に何を発見し、何が生まれるのかを問い、現代社会全体をアートの視点で読み直してみたいと考えます。そこで生成される情熱や才能が、丈六のキューブという空間を通して発露される結晶体(作品)を、この「Art Award IN THE CUBE 2017」は大いに歓迎します。

という内容でした。2016年5月に開催した個展で「現代社会における物事の価値」などをテーマに制作した作品と通ずるものがあったので、この企画展での表現の場を求め、応募することにしました。応募の経緯や作品構想については、こちらのインタビュー記事を御覧ください。

日程

公募の応募受付は2016年4月11日〜2016年7月8日までで、応募は作品提示ではなくプロポーザルでの応募でした。最終的には790件の応募があり、8月の一次審査にて、その中から15組の作家が選ばれました。
プロポーザルでの入選を果たした各作家が、2016年9月から2017年3月上旬までを制作期間とし作品を作り上げ、2017年3月上旬から約2週間の設営期間を過ごし、2017年3月末の二次審査を経て大賞・審査員賞が選ばれ、2017年4月15日〜2017年6月11日(月曜休館)まで岐阜県美術館にて作品展示・発表が行われます。また、同期間に関連イベントとして、入選作家による公開制作やワークショップなども開催されます。

今回の展示におけるテクノロジー活用

今回の展示は、昨年開催したの個展「箱のなかに入っているのはどちらか?」で発表した作品のうちの1つである「移動する主体」の進化版で、テクノロジーや造形部分など各所をアップデートし、パッと見た感じではそこまで変わりがないですが、ほぼすべてにおいてリメイクしています。

手遊びのカタツムリの機構

以前の個展で制作した「手遊びのカタツムリ」は、手の造形部分は石膏で、カタツムリの動作機構にはサーボモーターを使用していましたが、石膏だと触覚の動きを出すために指の関節部と手の甲を別々にしなければならず、手の動きに一体感が出ていなかったのと、動きとしてヌメり感が表現しきれていなかったので、今回は手の造形部分をシリコンで作成して指と手の甲を一体にし、動きのヌメり感を出すために、動作機構としてステッピングモーターとプーリーとタイミングベルトを用い、プーリーの回転運動を指の上下運動に変えて、指の動作を表現するようにしてみました。下図のようなものをシリコンの手の内部に組み込んでいて、2本の棒のような部分が人差し指と中指、つまり手遊びのカタツムリの触覚部分になります。

手遊びのカタツムリの機構

床を這う人間の動作とセンシング

CUBE

環境準備

床を這い回る人間はケーブルレスで稼働させているため、這う人間に対して外部からのセンサー情報など、何かしらのシグナルを送る方法を検討しました。展示会場にはルーターなどが設置されていないため、今回は這う人間の内部にRaspberry Piを仕込み、Raspberry Piで独自のアクセスポイントを立てて、各センサー情報をローカルネットワーク経由で取得できるようにしています。以前、2.4GHz帯でローカルネットワークを組みましたが、これをベースに今回は途切れにくい5GHz帯で組むことにしました。使用したのはRaspberry Pi3ですが、組み込まれている無線チップやドライバは2.4GHzのものなので、カーネルを再構築して5GHzを扱えるようにし、Raspberry PiのUSBポートに5GHzに対応しているWi-Fiドングルを挿して使っています。

駆動装置

今回、這う人間を動かす駆動装置にはルンバを使ってみました。胴体部分にルンバを入れ込み、Arduinoを使って制御しています。制御にあたっては、外部からのセンサー情報の要素からも判断できるようにするため、センサー情報などはアクセスポイントを立てたRaspberry Piでいったん受け取るようにしています。そのRaspberry PiとArduinoをシリアルケーブルで接続しておき、Raspberry Piからシリアル通信で制御信号をArduino側に送り、受けた制御信号に基いてArduinoからルンバを動作させるという、ちょっと面倒くさい構成になっています。外部からのセンサー情報の受け取りにはRaspberry Pi内にNode.jsでサーバーを立てて、OSCで受け取るようにしています。

外部トラッキング

駆動装置を用いて這う人間を動かしていますが、重さや摩擦などの影響を受けるため、正円を描くようには動き続けてくれません。そのため、動きの補正を行うためのなんらかの仕組みが必要になりますが、今回取り入れてみた機能の1つめが赤外線を用いた外部トラッキングです。
ここでは、CUBEの4面の各壁上に赤外線カメラを床を見下ろすように設置しています。這う人間の衣服に仕込んだ赤外線LEDを、赤外線カメラでトラッキングすることで、壁際に寄りすぎて来ていないかを判定しますが、赤外線LED以外の照明の反射光なども検知してしまわないように、事前にプログラム内部で赤外線LEDのみを抽出できるようにパラメータを調整しておきます。下図の左がパラメータ調整前、右がパラメータ調整後です。

赤外線トラッキング

カメラウィンドウ内に引いた赤い境界線をバーチャルウォールとし、赤外線LEDの座標情報とバーチャルウォールの座標情報を比較し、危険域内に侵入してきていないかを常に測定し、侵入してしまった場合にはネットワークを通じて這う人間側に、危険域外へ進むよう回避信号を送ります。赤外線トラッキングのプログラムは、カメラをつないであるRaspberry Pi上のopenFrameworksで組み、這う人間側で立てているNode.jsサーバーにOSCで信号を送っています。

自己位置推定

外部トラッキングに加えて、今回取り入れてみた機能の2つめは超音波距離センサーを用いた自己位置推定です。カメラと赤外線LEDの間に鑑賞者が立ってしまうなどにより、トラッキング対象がカメラで補足できなくなっても、這う人間自身で壁際に寄ってしまっていないかを判断できるようにするために、超音波距離センサーを用いて這う人間自身と壁との距離を測定し続けます。超音波距離センサーは脇腹あたりと、前方の2箇所に設置し、2箇所の計測結果を用いています。下図は脇腹あたりのものです。

距離センサー

ただ、CUBE内を鑑賞者が自由に出入りできるため、測定結果を即時に判断材料として使用してしまうと、測定結果単体では壁に近寄ってしまったのか鑑賞者が近づいてきたのかが判断できません。そのため、距離センサーによる測定結果は複数回サンプリングの結果を元にして判断するようにしています。仮に、外部トラッキングなしの超音波距離センサーの自己位置推定のみの場合、常に距離センサーが壁に対して並行(超音波が壁に垂直に飛んでいく状態)に近ければ問題ないのですが、四角の壁に覆われた中をグルグル移動する関係上、どうしても壁に対して超音波が斜めにあたる状態が発生することにより、正しく測定されないケースが多発するため、自己位置推定のみでは成り立たず、また外部トラッキングの判定よりも判断の基準を下げています。

出入り検知

上記のようにセンサーなどを活用して這う人間が適切に動作できるように処置を施してはいますが、それに加えてCUBE内の人の出入りを検知するために人感センサーも併せて使用しています。人感センサーを設置した理由は大きく分けて

  • 測定誤差による動作を最小限に抑える
  • バッテリーの使用量を抑える

の2つの意味合いを持たせています。「測定誤差による動作を最小限に抑える」については、美術館が開館している8時間もの間、這う人間が常に動き続けていなくても、鑑賞者が訪れてきたときのみ動くようにすれば、鑑賞者の体験を損なうことなく、這う人間の絶対的な移動量を減らすことができるため、必然的に移動に伴う誤差機会を減らすことができるからです。もうひとつの「バッテリーの使用量を抑える」については、通常のルンバが積んでいるバッテリーだと約2,3時間程しか持たないため、今回の展示用に約4倍のバッテリーに積み替えてはいますが、それでも潤沢なバッテリーを積んでいるわけではないため、必要なときにだけ動くようにすることで、ルンバ内バッテリーの節電をしています。

振り返り

移動する主体

今回の作品におけるテクノロジー活用では、とにかく床を這う人間を「ケーブルレス」で「営業時間中、動き続けて」、「運営の方の手間を極力減らす形」でどう実現するか、というところが最大のネックでしたが、ひとまずの形で要件を満たせるものを組み上げられました。振り返れば「もっとこうした方が良かったかもしれない」というところも多々ありますが、これらの反省点は、また別の機会に吸収していければと思います。

今回の展示で、幸運なことに審査員賞をいただくことができましたが、それに加えて、とても魅力的なアーティストの方達と出会うことができました。どの作品においても手法・技法・表現など様々な観点で学ぶことは多く、自分たちの作品の次なる展示の機会を模索していくことと同時に、せっかくこうして出会えた方たちと、また違った形で何かご一緒できる機会もあわせて模索していけたらと思っています。