明田守正

デモだらけの触覚技術学会!!

 2016年11月29日から2016年12月1日までの3日間、千葉県柏市で触覚技術の国際会議Asia Hapticsがありました。触覚技術とは携帯電話のバイブレーターなど、視覚や聴覚ではなく、皮膚が感じる触覚の入出力を実現する技術です。視覚や聴覚は頭部の目と耳が担当する感覚ですが、触覚は全身の皮膚で担当する感覚、体性感覚であり、昨今ヴァーチャルリアリティなど身体全体で体験する技術が発展する中で重要性が高まりつつあります。Asia Hapticsは西暦の偶数年に隔年で開催する学会で、欧米で奇数年に開催するWorld Haptics Conferenceと対になっています。

 Asia Hapticsの特徴として、発表にあたって論文だけではなく、触覚技術を実際に体験できるデモが必須であることです。すべての発表者は会議場でデモンストレーションを行います。今回90件のデモ発表がありました。「触ってみなければわからない」触覚技術を発展させるためにはデモが必須のようで、発表は壇上ではなく、自分のブースで研究内容をデモンストレーションを交えて説明する様子を会場内でTVライブ中継して大会議場で投影していました。

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 上記の写真は筑波大学嵯峨 智さんの 熱放射を利用した力覚ディスプレイ のデモ装置です。

 「画面の中のろくろに触って陶芸したい」「熱のディスプレイを作りたい」 という動機で、ハロゲンランプに可動レンズでフォーカスを調整しと二軸で稼働するミラーを装備し、サーモグラフィーと超音波距離センサーで検出した利用者の手の平に向け、ハロゲンランプの熱を当てる熱ディスプレイです。デモではヴァーチャルな球体を触る状況を再現しようとしていて、実際に触って見ると「熱い!熱い球体がここにある感触がある!」と大変目新しい体験をすることができました。

触覚講習会

 「触覚講習会」は、触覚の基礎と応用を学ぶ講習会で、Asia Hapticsに合わせて開催になりました。明田はこの講習会に参加し、触覚認識が起こる組織や脳の仕組みから触覚の原理に合わせた応用技術について学んできました。ぼくが理解した範囲で触覚にまつわるさまざまな知見を紹介します。

 触覚講習会における、宮岡徹(静岡理工大学)さん、野々村美宗(山形大学)さん、佐藤克成(奈良女子大学)さん、望山洋(筑波大学)さん、仲谷正史(北海道大学)さん、北田亮(生理学研究所)さんのお話を参考にさせていただきます。

4つの機械受容単位

 人間の皮膚は、他の物体が当たった時に発生する狭い意味での触覚、熱さ寒さを感じる温冷覚、身体を害するレベルの刺激を検知する痛覚を持っています。触覚を感じる皮膚内の仕組みとして、マイスナー小体、メルケル触盤、ルフィニ終末、パチニ小体の4つがあり、それぞれ違った特徴で触覚を感じています。

 メルケル触盤は表皮にあり、マイスナー小体は真皮と表皮の境界に、ルフィニ終末は真皮の中程、パチニ小体は皮下組織と真皮の境界に。。。という話は触覚の本に出てくる基礎事項で、なかなか覚られませんでしたが、今回の講習会でわかりやすい役割の位置づけを知ることができました。

 そもそも触覚は、皮膚の組織が変形することで起こるメカニカルな現象であり、触覚を担当する4つの仕組みは、機械的な変化を検知する「機械受容単位」と呼ぶそうです。

 変形は圧力で発生します。機械的受容器(機械的センサー)は、圧力刺激に対しての反応が速いか遅いか、また圧力の面積が狭くても反応するか、広くなければ反応しないか、速度と大きさの二つの特徴で分類できます。

 反応の速さをFastとSlow, 圧力面積の狭い方をI型、広い方をII型で分け、FastのI型、FastのII型、SlowのI型、SlowのII型の4つにわけることができます。それぞれをFA I(Fast Adapting type I unit), FA II, SA I(Slow Adapting type II unit), SA IIと呼び、触覚を感じる4つの仕組みと対応しています。

  • FA I

    • マイスナー小体。
    • 速く反応する。刺激の速度成分に反応する。狭くてもよい。
    • 変位;押されたままの持続した状態には反応しない。
    • エッジの鋭さや点字を感じる。
  • FA II

    • パチニ小体。
    • 速く反応する。刺激の加速度成分に反応する。広さが必要。
    • 変位には反応しない。
    • 特に高周波刺激に反応する。
  • SA I

    • メルケル触盤。狭くてもよい。
    • 遅く反応し、小さな変形を検知する。変位と速度成分に反応する。
    • 変位;押されたままの状態に反応する。
    • 圧力の変化、材質や形を感じる。
  • SA II

    • ルフィニ終末。
    • 遅く反応し、変位成分に反応する。広さが必要。
    • 変位に反応する。
    • 圧迫や皮膚の引っ張りに反応する。

 こうして分類してみると、マイスナー小体、メルケル触盤、ルフィニ終末、パチニ小体をチャートで理解することができそうです。

振動周波数に対する感度

 皮膚に与える圧力の時間的な変動、振動によって触感が変わります。なめらかな手触りと、でこぼこ、ざらざらした手触りは、皮膚上に生まれる機械的な変形の振動波形が異なるので手触りが違うのです。

 人間の親指が振動に反応する敏感さについて、以下の知見があるそうです。

  • 比較的大きな面積(2.9平方センチメートル)で発生する振動については、40Hzより大きいと急に感度が増し、250Hzあたりがいちばん敏感。
  • 小さな面積(0.008平方センチメートル)で40Hzより小さな振動は大きな面積と感度は変わらない。

 振動子などで振動を用いた触覚出力装置を考える際に、どのような周波数を発生させるべきかを検討する際に重要な知見です。

 ぼくが電気触覚装置で感情の違いを表現するデバイス「無言の圧力インターフェイス」を実装していた際、触覚パターンの合成には素材にする音源をイコライジングで100Hz付近を中心に強調していました。触覚に高周波は影響しないだろう、と考えて低めの周波数にしたのですが、250Hzを中心に強調した方がより効果的だったと思います。

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触覚いろいろ

 皮膚に湿度のセンサーはない(!)そうです。ひとは水分による摩擦係数の変化で「しっとり」「かさかさ」を感じています。温度と湿度で計算する不快指数、湿度は発汗の状態に伴う皮膚の摩擦状態で快と不快が異なっていることになります。水分の量を制御することは化粧品の設計で重要で様々な応用があるようです。

 視覚と同様に触覚にも錯覚があります。触錯覚のひとつに、ヴェルベット・ハンド・イリュージョンというのがあり有名だそうです。6角形パターンの金網を両手で挟んで前後に擦り動かすと、ある速度で動かした時に、金網がヴエルベットであるかのような感触があるように錯覚します。

 一般的な金網があると実際に体験することができます。網線が0.5mm,網の大きさが50mm程度であるといちばん効果的だそうです。

 触覚の錯覚を応用し、堅いプラスティックの表面に、機械受容器に合わせたでこぼこを整形することで、「柔らかさ」を演出することができます。乗用車のドア内装部品として実用化していて、でこぼこ表面を成形してないつるつるな裏は堅いのにでこぼこ成形してる表面は柔らかく感じました。

 触覚の原理を応用することで、化粧品や工業製品の品質を高めていくことができています。

 触覚と脳の活動の関係を調べてみると、視覚と触覚が関連していて、触覚を訓練して手で「見る」ことが可能です。

 目で人間の顔を見た時に活動する脳の部位(紡錘状回顔領域)は、目隠しをして手で人の顔を触っている時にも活動します。盲パイ、すなわち麻雀に慣れた人が手触りで牌を判別する際、視覚に関する脳の一次視覚野が活動します。麻雀に慣れていないひとは活動しなかったので、麻雀牌に慣れるという訓練で「手を使い、脳の視覚部位で見る」という能力の拡張が可能です。

 視覚は外界にある形、すなわち空間的な状況を可視光線のセンサーで把握する感覚ですが、触覚を空間的な属性センシングに使うことで、視覚そのものを拡張することが可能なのです。

温冷覚の知見

 皮膚が感じる熱さ、冷たさの温冷覚は、触覚とはことなった感覚センサーが受け持っています。自由神経終末のなかに6種類の温冷覚センサーがあり、それぞれ温覚か冷覚のいずれかを担当しています。

 温冷覚には静的な反応と動的な反応があります。皮膚の定常的な温度の状態、つまり絶対的な温度の感覚が静的な反応で、皮膚上の熱さ冷たさの瞬時的な変化を感じる感覚が動的な温冷覚反応です。

 考えてみれば自然なことなのですが、セ氏30℃-36℃では、静的な反応はほとんど発生しないそうです。30-36℃では熱さセンサーと冷たさセンサーは低い頻度でほぼ両方発火するのですが、どちらかに偏っていないので熱さと冷たさがわかりません。温冷覚があることだけはわかるようです。温度が36℃を越える、もしくは30℃を下回るときには熱さセンサーと冷たさセンサーの発火に偏りが起こり、「暑い」「寒い」がわかることになります。上は45℃で熱さセンサーの感度が最大に、下は22-28℃で冷たさセンサーの感度が最大になり、45℃以上もしくは15℃以下では痛みセンサーが反応し始めます。

 6つの熱さセンサーは「イオンチャンネル」を持っていて化学反応によって動き始めるのですが、おもしろいことにトウガラシは熱さを感じるセンサー(TRPV 1)に化学的に適合し、ミントは冷たさセンサー(TRPM 8)に適合するそうです。食べ物の辛さや清涼感は、しっかり化学現象として温冷覚センサーに影響することから生じているのです。

 皮膚の温度センサーは、温度変化速度に関して特徴があります。速い温度変化の場合には敏感で、遅い温度変化に対しては鈍感になります。1秒当たり0.1℃の速度で変化する場合には小さな温度変化でも感じることができますが、1秒当たり0.1℃より遅い変化の場合には、温度変化を感じるために必要な温度差が大きくなります。つまり温度の変化量が大きくなければ温度変化を感じることができません。

 この知見から、温度で情報を提示する温度ディスプレイを作る上では、高速な温度変化を実現することが必要になることがわかります。

 またそもそもの皮膚温度によって温度変化に対する感度も変わってきます。たとえば皮膚温度が比較的冷たい、28℃の時、冷たくなったと感じる温度差が0.2℃ですが、熱くなったと感じる温度差は0.7℃になります。逆に皮膚温度が38℃と熱い場合、熱さを感じる温度差が0.2℃であるのに対して冷たさを感じる温度差は0.8℃になります。

 恒温動物であり、快適な衣服下の皮膚温度(衣服気候)が32℃±1℃である人間が暑さ寒さに対応する上で、暑いときには暑さに敏感に、寒い時には寒さに敏感になることも考えてみれば自然なことですが、人間の皮膚感覚は実によくできていると思います。

温もりの感情と「美しさ」

 「触覚認識メカニズムと応用技術」において、何 昕霓さん、佐藤 克成さんは以下のように述べています。

 「温冷覚は快や不快の感情を生み出す。そのため、温度そのものが感情を生み出すことができ、さらに主観的快・不快を有する。多くの論文が温度は感情や社会的行動に影響することを示している。例えば、環境の温かさにより人は他者の印象をより良く評価し、より優しく接するようになり、対人間距離をより短くする。温冷覚と対人行動の関連は肉体的な体験に根付いていると考えられる。身体化認知は、愛のような抽象的概念が、身体的温かさのような身体感覚など実体験の知覚内容に基づく、と示唆している。そのため温度の影響は、子供時代の介護や看護などの際に得た、温もりと好意的な感情の相互体験を通して形成された、潜在記憶や関連性によってもたらされると考える。これらの温冷覚と感情の相互作用性は、温度刺激によって人の社会的活動や情動的応答を形成できる可能性を持ち、また温冷覚ディスプレイの今後のさらなる発展を示唆する重要なものである。」

 「温かさ」は心地よさ、特に人間関係におけるよい関係を表す言葉として使うことがあります。暖かさが感情にあたえる影響は、子供時代の肉親とのスキンシップのぬくもりと感情の相互作用によって生まれる、という説は説得力があると思います。

 そういえば「桃尻語訳 枕の草子」などで日本古典文学を翻案してきた小説家の橋本治氏は、「人はなぜ、『美しい』がわかるのか」という本で、以下のことを述べています。

  • 「美しい」がわかるひととわからないひとがいる。あるいは日常で「美しい」という言葉を自然に使うひとと、ほとんど使わないひとがいる。後者はほぼ「美しい」がわからないひとと重なるように思える。
  • 合理的なもの、例えば高度な身体技能をもつスポーツ選手の身体の動きは、よい成績を達成するうえで効率よく合理的なので、美しい。が合理的なものがすべて美しいわけではない。美しいものを「合理的だ!」とは言わない。
  • 「美しい」とはとっさの感動に伴って出る言葉で、恋に似ている。
  • 実は「美しい」は「自分とは直接に関わりのない他者」を発見することであり、自分に関係がなく存在する他者を容認し、肯定することばである。

 さらに清少納言や吉田兼好が「美しい」をどのように捉えていたのかをひもときつつ、自らの体験を踏まえて「人はなぜ夕日のような風景を美しいと思うのか」というテーマに展開していきます。

 そしてひとつの結論に到達します。

  • 幼い自分のすべてを許容してくれていた祖母と散歩していた時に、一緒に見た夕日を見た記憶が、夕日を美しいと思わせることに気づいた。「美しさ」をわかるとは、祖母の(肉親の)愛情がもたらしてくれた「他者を容認する」概念である。

 この話を説得力があるとは考えないひとも多いでしょう。しかし表現において「美しさ」を追求することや、感情へ訴えかける表現について考える上で、何らかの示唆があると思います。

 触覚技術は皮膚感覚に訴え掛けるもので、対人コミュニケーションで重要なスキンシップと共通する領域での表現で活用することができるでしょう。個人的には、触覚技術が感情や愛情、そして橋本治氏の言う意味での「美しさ」を拡張する可能性に期待したいと思います。

参考

  • 下条 誠, 前野 隆司, 篠田 裕之, 佐野 明人[2014]:「 触覚認識メカニズムと応用技術-触覚センサ・触覚ディスプレイ-【増補版】」, S&T出版.

  • 橋本 治[2002]: 「人はなぜ『美しい』がわかるのか」,ちくま書店.

  • Saga, Satoshi[2016]: 'Thermal-Radiation-Based Haptic Display - Calibration and Shape display -', Asia Haptics 2016.

謝辞

Mashup Awards 2016にて、ぼくが制作に参加した「無言の圧力インターフェース」が 「Microsoft Cognitive Servicesアプリ賞」 を受賞しました!ショッカソン、Mashup Awards、そして日本マイクロソフトのみなさん、ありがとうございました!